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November 15, 2006

夏のロケット

 高校時代、彼らはロケットを打ち上げる事に青春を捧げていた。小さなペンシルロケットからその活動は始まった。
 火星へ行きたい。それは夢だった。

 そして、
 一人は宇宙開発事業団の研究者となり、
 一人は一流商社で宇宙事業本部に配属され、
 一人は大手特殊金属メーカーで材料工学の研究者となり、
 一人はミリオンセラーを生むロックミュージシャンとなり、
 そして"ぼく"は新聞社で科学部宇宙担当者となった。

 社会人になった彼らは、本物のロケットを打ち上げるために伊豆諸島の小さな島に集結する。マーズ18号と名付けられたロケットはおよそ7m。宇宙までの弾道飛行を可能とするものだ。
 これの打ち上げは、将来、低高度の人工衛星産業に殴り込みをかける大いなるデモンストレーションだった。それは自分たちの手で有人火星旅行を実現のものにするための大事なステップで、そのために彼らは法を犯すことすら厭わなかった…。

 もう10年近くも前に出版されていた本。2,3年前に文庫本を買っていたのだが暫く本棚のコヤシとなり、漸く読んだ。面白かった。
 主人公高野の、"ぼく"の視点で物語は進むのだが、彼の気持ちはやや複雑であったのではないか、と思う。
 マーズ18号計画は、高野抜きの4人で始動している。高野はある事件を契機に高校時代の仲間を思い出し、調査を進めて4人に合流する形になった。声をかけてもらっていなかったという事実と、そこにある疎外感。しかし仲間は彼を受け入れ、彼もマーズ18号計画では重要な役回りを演じることになるのだが、それでも、彼が居なくてもロケットを打ち上げる事ができたのは間違いない。
 ロケットの設計者、作成者、計画の推進者、そして出資者。高野以外の4人は必須条件者であり、彼らが居ればプロジェクトは回ったと思われるし、だからこそ4人は最初は高野に声をかけていなかった。高野の寂しさは、最初にこそ描かれていたが、表現上はすぐに消えてしまっていた。それよりも、打ち上げまでの時間が濃密であり、それを思う暇もない、という感じではあるのだが。

 物語の終盤、こんなシーンがあった。
 ひょうたん島と名付けられた伊豆諸島の小さな島で組上げられたロケット、マーズ18号。彼らはその機体に、クギかハリガネで自分の名前をこっそり刻み込んでいた。高野は4人の名前を見て、自分の名前をその横に刻み込む。そのときの心境は満足げに描かれていたのだが、本当にそうだったろうか。やっぱり自分が置いていかれたような、そして皆に追いつき安心したかのような、そんな気は無かったろうか。

 マーズ18号にまつわる物語は一応終わったが、彼らの物語はまだ終わっていない。来るべき火星への道は始まったばかりだ。高野は自分の役どころを自覚しながら次のステップを意識していた。その時点で、漸く高野が本当にロケッティアの仲間入りをしたような、そんな気がした。

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